2016年7月25日月曜日

●月曜日の一句〔岡野泰輔〕相子智恵



相子智恵






目の前の水着は水を脱ぐところ  岡野泰輔

句集『なめらかな世界の肉』(2016.07 ふらんす堂)より

海でも川でもよいのだが、私はプールを想像した。目の前を泳いでいた人がざぶんと水から上がる。ぴっちりと体を覆っていた水から、ぬっと体を抜き出すのは、なるほど言われてみれば〈水を脱ぐ〉感じがある。もちろんこれは「水着を脱ぐ」を連想させることは織り込み済みだろうから、何となくエロスを感じさせるのも面白い。

〈目の前の〉と〈ところ〉で画角がが決まっている。まず〈目の前〉で水着がクローズアップされる。読者は目の前の水着しか見えなくなる。そして下五は、たとえば「脱ぎにけり」でもよいわけで、この「ところ」は〈鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波〉と同じ手法だ。辞書の意味で言えば「話題として取り立てる部分」ということになるだろうが、読者はスローモーションのように、そこに視点を集中させることになるのである。

映画のワンシーンのようにアングルを定めて、一句が印象的になっている。

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