樋口由紀子
きっぱりと言ってくれそな茄子の紺
佐藤洋子 (さとう・ようこ)
この季節に八百屋の店先でかごに盛られた茄子を見たらすぐに買ってしまう。煮ても焼いても揚げても漬けてもそのまま塩もみしても旬の茄子は美味しい。それにしてもどの茄子の艶々と見事に光っている。
その茄子を見て、きっぱりと言ってくれそうだと思った。作者は茄子の紺のようにきっぱりと言えない。言いたいことはあるけれど言えない。あるいはきっぱりと言ってほしい人を思い浮かべてのことかもしれない。どちらにせよ、だから、茄子のように心残りなどまったくない艶々の紺になれなくて、中途半端な色をしていると思ったのだ。しかし、きっぱりと言えないことなんて世の中にはわんさとある。「かもしか」(1996年刊)収録。
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