相子智恵
しろながすくぢらのやうにゆきずりぬ 小津夜景
句集『フラワーズ・カンフー』(2016.10 ふらんす堂)より
世界一大きな動物種、シロナガスクジラ。
短い時間のすれ違いや「かりそめの恋」など、その場限りの軽い関係の「ゆきずり」という言葉に、「しろながずくぢらのやうに」で、途方もない大きさ、長さが加えられる。
シロナガスクジラのようにすれ違うのは、それはそれは長い時間がかかるだろう。軽い気持ちであっても、その長さ、大きさの分、ゆきずりの後の喪失感の大きさが思われてきて、なんとも切ない気持ちになる。
それでも「ゆきずり」に対して、シロナガスクジラという普通は考えもしないような、ぬーっとした巨大な比喩がなんだか少し楽しくて、さみしくて切ないのだけれど、不思議に安らかな気持ちも生まれてくるのである。
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