関悦史
新社員動く歩道にさざめけり 森山いほこ
動く歩道も大都市では物珍しいものではなくなって久しい。俳句で扱われることは多くはないかもしれないが、必ずしも素材の新奇さに頼った句ではない。
季語「新社員」はその初々しい、不慣れな挙措、行動が直接モチーフにされることが多くて、どちらかというと微笑ましくも野暮ったい句になることが多い気がするのだが、ここでは彼らは真新しいスーツに身を包み、一団となって動く歩道で移動しつつ、気安く談笑しあっているだけである。
だが、そのスマートさがかえって新社員たちの緊張や晴れがましさといった気分全てを、その存在感とひとまとめにして、より際立たせることになる。
この句の「新社員」たちは、都市を舞台とするアクターのようでもあり、水族館の水槽内の魚たちのようでもあり、マネキンじみた美神のようでもある(「さざめき」に秘められた生気と歓喜性……)。動く歩道で一団となってなめらかに水平移動していく新社員たちは、大都市というものが持つ一種の虚実皮膜性を体現しているといえる。「新社員」から、都市部ならではの抒情を清新に引き出した句である。
句集『サラダバー』(2016.10 朔出版)所収。
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