相子智恵
絨毯に置く花嫁のスニーカー 森山いほこ
句集『サラダバー』(2016.10 朔出版)より
一点のみ、一瞬のみを切り取り、背後に大きなドラマを想像させるという、俳句の一つの面白さがある写生句。
ただの嫁ではなく「花嫁」であるから、当然、結婚式当日が思われてきて、この絨毯も結婚式場のそれなのだろうと想像される。
この花嫁は、式場までは普段通りの自分であるカジュアルな服装とスニーカーで来て、控室で上から下まで貸衣裳の花嫁衣裳に着替えたのだ。式場はすべて非日常だから、控室の絨毯だって華やかで上品だろう。そこに場違いなスニーカーがぽつりと置かれている。
非日常なハレの場の、ケの綻び。それがみじめではなく、明るい。花嫁のスニーカーという意外性と、そこから感じられるアクティブな人物像、現代的な軽い空気感が、一句を爽やかなものにしている。
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