樋口由紀子
すっぽりと包めば怖いことはない
但見石花菜 (たじみ・せっかさい)1936~
自分に言っているのか、他人に言っているのか。怖いのは世間か、上司か、妻か、失態か。世の中には怖いものがいっぱいある。怖いからつい目を逸らしたり、見ないようにしてしまう。
「怖いことはない」は「怖い事」ではなく、「ことがない」の連語で「する必要がない意」で「怖がる必要なない」を表しているのだろう。しかし、すっぽりと包んだって、そのなかにあるものは変わらない。消えていくわけでもなく、減っていくわけでもない。ただ見えなくなっただけなのにと、作者に忠告したくなってしまうが、それは作者の想定内で、読み手が掌中に嵌ったことになるのだろう。すっとぼけた楽天性を出している川柳である。第28回川柳塔きゃらぼく忘年句会報(平成4年刊)収録。
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