樋口由紀子
寝ころんで猫さし上げて職がなし
敬介
「職がなし」が需要なポイント。寝ころんで猫を高くさし上げているのはのんびりとしてなんともおだやかである。が、無職なのだ。これはたいへんで、直に生活に支障をきたす。なんとかしなくてはならないと思っているが、なかなかうまくいかない。
猫とじゃれている場合ではないこともわかっている。といって、無職なのだから他にやることもない。家族やまわりの人は早く職を探せとなにかとうるさいが、猫はニャーとなくだけで説教なんかしない。さてさてどうしたものかとつぶやきながらまた猫をさし上げる。
今月出版された『猫の国語辞典』はどの猫にも愛情たっぷりなユニークな国語辞典。掲句は「ねこといる」(人は猫から安らぎを、猫は人から食べ物と安全をもらう)の項目より。〈金沢のしぐれをおもふ火鉢かな 室生犀星〉〈火が灰になり行く猫と静けさ 尾崎放哉〉 『猫の国語辞典』(2016年刊 佛渕健悟 小暮正子編 三省堂)所収。
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