樋口由紀子
ヨーコさんはうちに帰ってしまわれた
徳田ひろ子 (とくだ・ひろこ) 1956~
私のまわりにもヨーコさんがたくさんいる。洋子さん陽子さん葉子さん、わりとポピュラーな名前である。「ヨーコさん」と表記。「ようこさん」と呼ばれているのを聞いているだけで漢字でどう書くかを知らないのだろう。でも「ようこさん」ではない。「ヨーコさん」や「帰ってしまわれた」の言い回しに作者の思いや距離をおしはかることができる。
なぜ帰ったかの理由も聞けるほどの間柄でもない。しかし、ヨーコさんが居なくなって心にすっぽり穴が開いたような気持ちになった。別に話さなくても彼女と同じ場に居るだけでよかったのだ。なにかあったのだろうかとも思った。さりげなく書かれた一句にいろいろと想像が膨らむ。掌編小説のような味わいもある。掲句は第19回杉野十佐一賞の兼題「消」の入選句。
〈私はこういう者ですと宙返り〉〈コスモスは怖いぞ泣いたふり死んだふり〉〈バケツから手が出て足が出てきた夏〉 『青』(2016年刊)所収。
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