相子智恵
啓蟄の何も出て来ぬ日も来るとか 宗田安正
句集『巨人』(2016.11 沖積舎)より
土の中から冬眠していた虫が出てくる啓蟄。その啓蟄に、いつか何も出てこない日も来るとか…という。虫たちが死に絶えた後のことを指しているのだろう。「来るとか」と伝聞の形で書かれていて、主体が物語を語る立ち位置にいるような感じがある。この当事者でない立ち位置が、飄々とした味わいを生んでいて、諧謔とも諦念ともつかない感じが漂う。
この句の数句前には〈蛇穴を出づホモ・サピエンス滅びしかと〉という句もある。蛇が土中から出てきて、人類は滅びたのだろうかと。こちらもやはり語り手の位置は神の視点というか、神話的な趣がある。
滅びたのは地中のものらか、地上の人類か。作者が描く句世界はそのどちらでもあるのだろう。どちらも終末的な句なのに、なぜかほの明るい。
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