相子智恵
うつふんと止まる遅日の昇降機 黒澤あき緒
句集『5コース』(2017.01 邑書林)より
エレベーターが止まる時に、何とも形容しがたい音が鳴ることが確かにある。モーター音なのだろうか。エレベーターが通る四角い空間に、くぐもった音が反響する。「うっふん」と、言われてみればそんな感じだと思い、ニヤリとする。停止時に「うっふん」に合わせて体が上下する感じも思い出す。遅日という季語と「うっふん」という昇降機の取り合わせが長閑で楽しい。
〈脱水機げたげたと春遠からじ〉〈葉桜やテニスラリーのぺこぱこと〉〈ぶつくさと火中の生木一茶の忌〉〈菜の花やはたはた止まりスクーター〉など、同句集には物が出す音が魅力的に描かれた句が結構ある。まるで物たちが喋っているようだ。
脱水機の音は「ガタガタ」であってはいけないし、テニスラリーも「ぽこぽこ」ではいけない。一般的な擬音語ではない音に、そういえばそう聞こえるかも、というリアルさと諧謔が宿っている。
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