相子智恵
紅梅や死化粧薄き棺を閉づ 石原日月
句集『翔ぶ母』(2017.03 ふらんす堂)より
〈死化粧薄き〉によって、納棺された人は女性だということが想像される。その化粧の薄さの中に、哀しみが静かに表現されている。
納棺の句では〈ある程の菊投げ入れよ棺の中 夏目漱石〉という句が有名だが、漱石の号泣が聞こえてきそうな句に比べて、掲句の〈棺を閉づ〉の哀しみは何と静かなことだろう。
棺を閉じることで読者の頭の中に生じる一瞬の暗転の後に、再び浮かんでくる紅梅の美しさにハッとする。紅梅に死化粧の口紅が残像となって重なる。
白梅ではなく紅梅であるところに華があり、故人の美しさが思われた。紅梅の色や香りに、伝えきれない感謝の思いが灯り、広がっていくようでもある。
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