関悦史
流灯の介護ベッドに流れ着く 石原日月
介護ベッドはいうまでもなくまだ存命中の者を世話するために使う。そこに死者の魂を弔うための流灯が流れ着くというのが衝撃的である。
介護している側から見ての句と思われるが、介護の果てには当然死別がある。それは誰にでもわかっているはずなのだが、時間的順序も空間的制約もとびこえて闖入する流灯は、頭では理解しているつもりでも、腹から得心がいっているわけではない現実を、いきなりつきつけてくるのである。
句集は母の看取りの句を中心に構成されており、病母に心情的に寄りそい、気づかう句が多いなかでこの句は異色。リアリズムを超えて暗い非在の川がベッドのわきにあらわれ、流灯が寄りつくさまは意外に視覚的に鮮明だが、しかしこの介護ベッドにはすでに人の気配が感じられない。介護ベッドに寝ている者は、じきいなくなってしまう。それを悲しむというよりも、単なる法理のようなかたちでこの句はあらわしており、景の情緒性がそのまま痛快なまでの非情さにもつながっている。一種の救いが、予知夢のようなかたちで現在につきささってきた句といえる。
なお作者、石原日月の前著までの筆名は石原明。
句集『翔ぶ母』(2017.3 ふらんす堂)所収。
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