相子智恵
相愛といふ距離にして雛あり 櫛部天思
句集『天心』(2016.9 角川文化振興財団)より
「なるほど、雛人形の距離は相愛の者同士の距離感か」と言われてみればそういう気もしてくる面白さがある。
宮中の婚礼の場面が表現されている雛壇飾りだが、その形式の中で、男雛と女雛はつかず離れずの距離で座っている。そこに「相愛の距離」という見方が持ち込まれることで、つかず離れずという距離の中に、互いへの信頼感や安定した関係といった内面が見いだされ、雛人形に命が吹き込まれていく。
この距離は作者自身が思う相愛の距離であり、いたって個人的なものだが、そこに警句のような普遍性を感じる。「あり」の断定が効いているからであろう。
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