相子智恵
朴の花とは天に向き咲くことよ 菊地寿美子
句集『朴の花』(角川文化振興財団 2017.04)
当たり前のことを当たり前に詠んだ句のようでありながら、「空に向き」ではなく〈天に向き〉であることが、この句の情感を高めていて、しみじみとする。空ではなく天であることで、神々の住む場所、また天国という死後の世界とのつながりが感じられてくるからだ。
朴の木は高くてなかなか花を上から見ることはできないが、それだけに天のためだけに咲いている花のようにも思われる。花の大きさ、白さ、杯のような形も、天へ捧げられる供物のような、人々の天に対する思いのようにも感じられる。
〈天に向き咲くことよ〉の詠嘆によって、そのような情感は高められている。この詠嘆によって、ただの写生ではなくその奥の精神性が感じられてくる。
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