相子智恵
時の日や宙に停まる観覧車 松井眞資
句集『カラスの放心』(文學の森 2017.06)所収
そういえば「時の記念日」というものがあったな……と、掲句を読んで思い出したくらい、私の中では認識が薄くなっていた日であり季語だった。どういう句があるのだったかと歳時記の例句も見てみたが、特に人口に膾炙した句も見られず、象徴性が湧きにくいのだろうと思う。
掲句、営業終了後の観覧車だろうか。観覧車は宙ぶらりんのまま、次の営業開始時刻まで止まっている。ただただ風に吹かれるのみの、その寂寞とした時間に、そういえば時の日が過ぎようとしているという静かな感慨が重なる。
観覧車は風の中で回り、止まることを、いつか取り壊されるその日まで繰り返す。次々と乗せては吐き出す人々は観覧車の中に留まることはなく、来ては去ってゆくのみだ。まるで『方丈記』の冒頭のような無常を、静かに、正確に時が刻んでゆく。〈時の日〉という季語が活かされた句だと思った。
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