相子智恵
馬肥ゆる大津絵の鬼どんぐり目 日高 玲
句集『短篇集』(ふらんす堂 2017.09)所収
大津絵は、江戸時代初期に東海道の宿場町である近江の大津で始まった素朴な民画。元は仏画であったが、後には世俗的な絵も描かれ、旅人のお土産となった。有名な画題としては、仏や鬼(鬼の寒念仏)、藤娘など。藤娘はのちに歌舞伎の舞踊などにも取り入れられていく。
掲句、大津絵の鬼は確かにクリクリしたどんぐりまなこで可愛らしい。3頭身ほどに描かれていて、まったく恐ろしくない。むしろ今のゆるキャラのような雰囲気だ。そこに〈馬肥ゆ〉という、澄んだ秋空の下で馬が豊かに肥えてゆく様子を取り合わせることで、馬を使って往来していた江戸時代の東海道の世界に自然に引き込まれる。季語によって俳味に厚みが出ている。
憂鬱な雨の月曜日にこの句を読むと、どんぐりまなこの鬼と一緒に、秋空のもとでボーっと往来する肥えた馬を眺めていたくなってくる。
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