相子智恵
点滴の音の広がる夜長かな 衛藤夏子
俳句とエッセー『蜜柑の恋』(創風社出版 2017.09)所収
夜の病室。消灯時間も過ぎて、イヤホンで備え付けのテレビを見ることもできないし、本を読むこともできない。しかも夜が長くなった秋のことだ。静かな暗闇の中で時間だけはたっぷりある。
音らしい音は点滴の薬液が規則正しく落ちていく音だけ。それが闇の中で広がっていく。水音は想像の中でどんどん広がり、やがて水の中に自分がいるような想像にまで進んでいくのかもしれない。〈広がる〉からはそんな心象風景が浮かび上がってくる。
0 件のコメント:
コメントを投稿