樋口由紀子
控えには缶詰切りとおろし金
石田都 (いしだ・みやこ) 1936~
道具の便利さにはたびたび驚かされる。あたりまえに使っているが、もし無ければ、たいそう不便で、それまではどうしていたのだろうと思う。「缶詰切り」も「おろし金」もなくてはならないが、「控え」になるとは思わなかった。「控え」が眼目だろう。ユニークで意味深な言葉。「控え」のニュアンスを巧み活用している。
自分の裡にあるものをどうにかしなければならなくなったときための「控え」だろう。中身をオープンにしたり、こだわりを細かくすりおろす。決して、無理も背伸びはしない。当然、「缶詰切り」と「おろし金」の方も承知していて、そのときのために作者のうしろでじっと待機している。
「缶詰切り」と「おろし金」はどちらも食に関わるものであり、目立つものではない。作者の日頃の生活や人柄が垣間見えるような気がする。いや、へそ曲がりなのかもしれない。自分を大きく見せようとするものの対極にあるように思う。ユーモアとウイット感がある。川柳「杜人」(2017年秋号)収録。
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