相子智恵
秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
句集『毫』(ふらんす堂 2017.08)所収
ああ、たしかに「皮膚」という感じ、あるなあと思った。私はカマンベールチーズの白黴の膜などを思ったりしたが、人によっていろんなチーズを思い出すことだろう。
この比喩は個性的な把握でありながら、言われてみればそれ以外にないというような必然性があり、いわゆる「発見のある句」とはこういう句のことを言うのかもしれないな、と思う。しかしそれが〈のやうなもの〉とすーっと流すように淡々と一句の中に着地していていて、いわゆる「ドヤ感」がないのがいい。そのさりげなさにふっと笑ってしまう。さりげなさが味わいとして長く心に残り、飽きがこないのだ。
取り合わされた〈秋冷〉も、うまいなあと思う。皮膚がひやっとする感じが内容によく響き合っているし、チーズという寒くなると食べたくなる食材に対する確かな季節感も示し、さらに形のない季語なのでチーズの微細な膜に焦点が定まる。
鑑賞がなんだか理屈っぽい解説になってしまったが、チーズを見るたびに思い出すであろう、大好きな一句となった。
0 件のコメント:
コメントを投稿