相子智恵
公園の冬温かし明日世界は 上田信治
句集『リボン』(邑書林 2017.12)所収
「クリスマスだな」と思いつつ、出勤するためにドアを開けた瞬間、昨日に比べて今日の東京はずいぶんと暖かくて、ちょっと拍子抜けしながらマフラーを外した。掲句がふわっと響いた。
〈明日世界は〉という言葉には何が続くのだろうと考えると、どうしても暗いイメージが湧いてくる。ルターの「明日世界が滅ぶとしても、私はリンゴの木を植える」という人口に膾炙した言葉のように、ポジティブなことはほんの一足ずつしか進められないのに、壊すのは一瞬であって、いきなり投入された「明日」という限定性と「世界」の大きさに、どうしても“破壊までの瀬戸際感”が感じられてくるからだ。
けれどもそこに至るまでの、あまりにもありふれた「公園」という場所が思いのほか「冬温し」な状態というのはちょっと嬉しくて、〈明日世界は〉という大がかりな言葉にまで、その何気ない日常の嬉しさがうまく及んでいく。不穏で平穏、日常で非日常。ゆるゆるとした不思議な味わいのある句だ。暖かくて拍子抜けするクリスマスの朝のように、ちょっと気の抜けたハッピーな明日が、世界中に来るといいと思った。
メリークリスマス。
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