樋口由紀子
佃煮の何十匹をすぐに食べ
椙元紋太 (すぎもと・もんた) 1890~1970
食べてしまったことを詠んでいるだけなのだが、作者がそれに対してどう思ったかをありありとみせている。言われてみれば確かにそうである。何も考えずに何気なく食べている佃煮は命をいただいている、それも数多の。ふと気づいて、あっと思ったのだろう。
川柳の平面のよさがよく表われている。奥行きがあるとか、フクザツとか、パースペクティブとか、ややこしいものはなにもない。書かれている内容はシンプルで具体的でだれにでもわかる。簡潔で言い切り、すぐに忘れてしまう程度のことであり、教訓めいたものではなく、考え込んでしまうものでもない。が、心にこつんとあたって、音がする。川柳の妙味である。
0 件のコメント:
コメントを投稿