樋口由紀子
桃色になったかしらと蓋をとる
広瀬ちえみ (ひろせ・ちえみ) 1950~
「桃色になった」は現象であり、「かしら」はどうだろうかという思いであり、気分でもある。まるで煮物の煮え具合を確かめるように蓋をとる。でも、煮物ではない。たぶん、自分自身の裡だろう。まるで他人事のように、素知らぬ顔で自分の心の蓋をとる。「桃色」はほっとする、やわらかな、ほんわかする色である。そうなっていてほしいと作者の願望である。
「なったかしら」の言い回しに味がある。青く腫れていたものが、痣になって痕が残っているかもしれないのに、たいしたことでもなさそうに見せる。気になることを気にならないようにふるまう。重いものを重くみせない、決して深刻に詠まない。読み手がどのように感じ取るのかをよく考えている。〈その先のソノサキさんの庭の花〉〈ぶよぶよは相当深いところまで〉〈かんぶにもこんぶにもよくいいきかす〉 「晴」(第1号 2018年刊)収録。
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