樋口由紀子
指先の力があまる稲荷鮓
村岸清堂
稲荷寿司はシンプルな食べ物だが、作るには繊細さが必須である。すし飯は牛蒡や人参を入れればいいし、胡麻だけでもなんとかなる。が、問題は油揚げの甘煮。油揚げの油の抜き加減でべたべたしたり、すかすかになったりする。なによりも仕上げの甘煮の油揚げを袋にして、すし飯を詰めるときの力の入れ加減は難関である。
力を入れさえすれば、あるいは頑張れば、なにごともいいのではない。思いきり力を入れることは単純でかえって簡単なことかもしれない。力をセーブする、力をあまらす、その程よく調節することが微妙でむずかしい。生きていく智恵は力のあまらせ具合にあるような気がする。破れた寿司揚げで学ぶことは多い。「あまる」という感触が上手い。「川柳タイムス」(創刊号・昭和5年)収録。
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