2018年7月15日日曜日

〔週末俳句〕不審者っぽい 村田篠

〔週末俳句〕
不審者っぽい

村田 篠


「庭に河骨の花が一輪咲いたから、見てきたら?」と母が言う。見にゆくと、黄色いつぼみがひとつ。家に入って「可愛いね」と報告したら、母は「お父さんに言っても反応がないから」と言った。私が反応したことがうれしかったらしい。

高齢の両親のようすを見るために、ときどき田舎へ帰る。といっても、一日中仕事があるわけではなく、すぐにすることはなくなってしまう。田園地帯で遊びに行くところもないので、スマホを持って家を出る。

散歩がてら、周辺の写真を撮っていると、すれ違う人々が怪訝な表情でこちらを見る。田んぼや畑で働いている人たちも、ふと手を止めて様子をうかがう。それはそうだ。田んぼの稲や、畑の茄子やトマトの写真を撮る人なんて、この辺りにはひとりもいない。そんなことをする意味が分からない。この人は、どうしてこんなことをしているの?

いささか不審者っぽい自分の姿を自覚して、思わず笑ってしまう。そうだよね。都会ではあらゆる人がスマホ片手に写真を撮っていても、誰も気にかけない。ここはまだ、そういう人たちが来ない場所。もしかしたら、この先もずっと。

でも私は、この風景たちを撮るのが楽しい。知らないものだってたくさんある。例えば、農道の脇で撮った植物の名前。母に訊いても分からなかった。SNSに上げると岡田由季さんが「ニゲラの種かもしれませんね」と教えて下さった。調べてみたら、その通りだった。

母はニゲラを知らなかったらしい。じつは私も最近までよく知らなかった。観賞用に栽培される花だと思っていたので、農道の脇に無造作に生えていることに少し驚いた。母にもそのことがどうやら不満だったらしく、しばらくいろいろな植物の名前を挙げていたが、やがて「そんな花があるんだね」と呟いた。




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