相子智恵
近々と二百十日の鳶の腹 対中いずみ
句集『水瓶』(ふらんす堂 2018.8)所収
〈二百十日〉は立春から数えて210日で、今年は9月1日だった。稲に甚大な被害を与える台風が相次いで襲来することから、農家の人々は過去の経験からこの日を厄日として警戒した。各地で風を鎮める「風鎮祭」が行われる。
普段は高く飛んでいるであろう鳶の腹を近々と見上げるということは、相当低いところを飛んでいるのだろう。季語によって強い風が感じられてくる。鳶が感知している天気の急変があるのかもしれない。〈二百十日〉という季語と近々と見ている〈鳶の腹〉だけで、その緊張感が見えてくるところが見事だ。
本句集は〈何かよきものを銜へて雀の子〉〈鳥のほか川しづかなる裕明忌〉など、鳥の佳句が多くて(水の佳句も多い)心が広やかに静かになる。
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