2018年10月4日木曜日

●木曜日の談林〔三輪一鉄、田代松意〕浅沼璞



浅沼璞








小鹿の角のさいの重六     一鉄
  汐ふきし鯨油火かき立てて    松意    
『談林十百韻(とつぴやくいん)』(延宝三年・1675)



宗因を奉じた江戸談林の連句集から、短句/長句の付合。

江戸時代の賭博は丁半博打。さい(サイコロ)を転がしてサイの目の奇数と偶数で勝負を決めた。重六(ちょうろく)とは六のぞろ目が出ること。それを確認するため油火をかきたてる賭博場の情景を詠んでいる。博打はご法度であったから灯りは弱くしてあるが、かつてその鯨が汐を吹いたように、今その鯨の油火がかきたてられているのだ。いわゆる談林的誇張。

博打に興じることを「鹿の角を揉む」というように、鹿の角をサイコロとし、また鯨油を灯火とした背景には、狩猟や捕鯨の産業化があった。つまり鯨や鹿を原材料として詠みこむ談林俳諧は、商品経済が発達した消費社会を下部構造としていた。

それにしても小鹿(をじか)の角と、汐をふいた鯨とを対で詠んだこの付合は、小と大、静と動、山と海といったイメージギャップを露わにしている。そこにも談林らしい視点がある。

この連句集を機に、江戸の一結社の呼称であった「談林」が、宗因流の汎称として世に知られるようになる。

0 件のコメント:

コメントを投稿