津田このみ句集『木星酒場』はなぜこんなにも人名が多いのか(ただし正答を結論したわけでも回答を求めるわけでもないWhy構文)
西原天気
津田このみ『木星酒場』(2018年8月/邑書林)には人名が数多く登場する。
ダライ・ラマ、ダリ、林家ペー・パー子、ゴッホとテオ(ゴッホの弟)、永六輔、松田聖子、ペ・ヨンジュン、モーツァルト、ベッケンバウアー。
架空で、バカボンのパパ。グループ名(バンド名)で、ザンボマスター。
人名のいちいちは、実際に句集で味わっていただくことにして、ここでは、この一句。
ベッケンバウアーという顔をして蛙かな 津田このみ
フランツ・ベッケンバウアー(1945~)はドイツのサッカー選手。世界歴代のベストイレヴンに必ず選出されるほどの名選手。Wikipedia には《背筋を伸ばし、常に冷静沈着で、DFながらエレガントなプレーでチームを統率し、ピッチ上で味方の選手達を操る姿と、『神よ、皇帝フランツを守り給え』に詠われたオーストリア皇帝フランツ1世(最後の神聖ローマ皇帝フランツ2世)と同じファーストネームであることから、「皇帝(ドイツ語: der Kaiser)」と呼ばれた。》とある。私自身、ドイツ代表チームでのプレイを幾度となく(TVで)観て、「背筋を伸ばし」た威厳のある動きやたたずまいをよく覚えている。顔も「皇帝」かどうかはわからないが、洗練と貫禄を備えている。
そうした選手像・人物像が「蛙」とはなかなかに結びつかない。
これは、どういうことかというと、ベッケンバウアーその人ということではなく、《音》の話なのだろう。
べっけんばうあー。
こんな顔なら、蛙にふさわしい。しっくりくる。
人名の《音》を取り出した句には、
なんと気持ちのいい朝だろうああのるどしゅわるつねっがあ 大畑等
がある。
アーノルド・シュワルツェネッガー(1947~)の外観や俳優としてのキャリアとは別に、うがいを想起させるこの音の並び(最後の「があ」でうがい水を口から吐き出す)が、この句の重要な成分となっている。
人名から《音》だけを取り出して/あるいは《音》に焦点を合わせて、意味や描写(ときとして俳句を退屈にする)からすこし逃れる。人名の擬音化は、もっと精力的に試されていい手法だと思っています。
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