2018年12月14日金曜日

●金曜日の川柳〔佐々木久枝〕樋口由紀子



樋口由紀子






私的空間とゴム風船と針

佐々木久枝 (ささき・ひさえ) 1940~

三つの名詞が「と」でつないでぽんと置かれただけのなんとも愛想のない川柳である。ふとひらめいたように三つが同等に並列されているが、「ゴム風船」と「針」は具体的な物だが、「私的空間」は抽象的である。「ゴム風船」と「針」には関連性があるが、「私的空間」との関わりはわからない。だから、いかようにも想像することができる。

針でプチッと刺してゴム風船を割る動作は誰かをびっくりさせようとするいたずらを思い浮ぶ。誰もがあまり好きではない音であり、行為である。「私的空間」はプライベートな、誰にも邪魔されない、なにも存在しない、私だけのとっておきの場のことだろう。プチッという音とともに変哲も無い日常が日常ではなくなるような一瞬。いままでが停止する。独自の折り合いのつけ方なのだろうか。私的空間を対象化して見ているような気がする。〈国貞とまぐわうライオンの雨宿り〉〈罪悪は名詞だし画鋲を踏む〉 「水脈」(第49号 2018年刊)収録。

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