2019年10月17日木曜日

●木曜日の談林〔西鶴〕浅沼璞


浅沼璞








 音に啼く鳥の御作一躰   西鶴(前句)
月は水膠の大事とかれたり  仝(付句)
『大矢数』第九(延宝九年・1681)

前回に引きつづき、西鶴による謡曲『鵜飼』のサンプリングから。


前句――
「音(ね)に啼く鳥」に「鳥の御作」をかける。
「鳥の御作(ごさく)一躰」は飛鳥時代の仏師・鞍作鳥(くらつくりのとり)によって作られた仏像一体の意。
鞍作鳥は飛鳥大仏や法隆寺の釈迦三尊像で知られ、止利仏師(とりぶっし)とも記す。

付句――
「月は水」は「月ハ水之精ナリ」(暦林問答集)という当時の認識。
「膠(にかわ)の大事」は乾漆像制作における膠の用法の、その大切さを意味しよう。
だから「とかれ」には「膠の大事を説く」と「膠を水に解く」の両意がかけられている。


二句の付合は難解だが、鞍作鳥による仏像一体は、乾漆技法における膠の大切な解き方を、それとなく人々に説いている、といった感じだろうか。

詞付としては、音に啼く鳥→鶯→法華経→大事(西鶴文芸詞章の出典集成)。

そして謡曲『鵜飼』の、「げにありがたき誓ひかな 妙の一字はさていかに それは褒美の言葉にて 妙なる法と説かれたり」(新潮日本古典集成)からのサンプリング(下線部)。

くわえて「音に啼く鳥→鶯」(春)から「月は水」(秋)への季移りでもあり、かなりの力技だ。

前回の西吟との付合みたいな協調性は微塵もない。


結語――
西鶴独吟はときに強引である。

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