相子智恵
惜しげなく呉れて教えず茸山 伊藤宇太子
句集『角巻』(ふらんす堂 2019.9)所載
ある人が、自分で採ってきた茸を〈惜しげなく呉れ〉た。松茸など、高級で貴重な茸も入っているのだろう。たっぷりの立派な茸に驚き喜びながら、話の流れで「こんなに立派な茸、どこで採れたんですか?」と尋ねると、「それは秘密に決まっているじゃないか」と教えてくれなかったというのだ。茸はくれても、茸採りをする者にとっては(特に茸採り名人ともなれば)、茸の採れる宝の山は秘密にするのが常識なのである。その落差が面白い。
句集の中には〈誰からとなく声ひそめ茸山〉という句もある。こちらは実際に自分が数人で茸採りに行った句だが、やはり「宝の山」という感じがして面白い。茸採りの本意とはこういうものなのだな、と思う二句である。
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