相子智恵
ゆく年の大いなる背に乗るごとし 辻 美奈子
句集『天空の鏡』(コールサック社 2019.11)所載
気がつけば今年もあと2日だ。暮れてゆく年、〈ゆく年〉というのは、「自力ではどうしようもなく大きく進む」感じがある。いや、いつだって時間は自分の意思に関わらず進み、自分の力ではどうにもならないものだ。けれども、例えば仕事の予定が一週間きっちり入っていて、それを黙々と進めているような日常では、「今週は忙しいなあ」くらいには思っても、月日は自分の手綱の下にあるような錯覚をしている。
しかし、仕事納めからのせわしなく過ぎる年末というのは、まさに〈大いなる背に乗るごとし〉で、大きな鯨の背中にでも乗ったように、あれよあれよと抗いようもなく時間の波に押し流されていく感覚がある。テレビなどでは何かと「総集編」があって、この一年をしみじみ振り返らされるのに、一方ではあと数日しかなくてせわしないという、時間が伸び縮みするような感覚の中で、その力をまざまざと見せつけられるのである。
虚子は「行く年」を〈年を以て巨人としたり歩み去る〉と自分と切り離したものとしてその大きさを視覚的に詠んだが、年の瀬にあたふたとしている私は、その背に乗って抗えずに進む、辻氏の〈大いなる背に乗るごとし〉の感覚に近い。
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