2020年3月16日月曜日

●月曜日の一句〔佐藤博美〕相子智恵



相子智恵







猫用の線香を買ふ春の雪  佐藤博美

「俳句αあるふぁ」春号(毎日新聞出版 2020.4.14)所載

東京では今年は雪をほとんど見なかったが、一昨日は大粒の牡丹雪が降った。雪片のあまりの大きさに空を見上げ、しばらく目で追い続けた。そういえば雨だと空を見上げないが、雪だと見上げるな、と思った。私だけかもしれないが。

掲句、〈線香を買ふ〉ほどの大切な猫だったのだ。亡くした悲しみがよく伝わってくる。それと同時に、上五を安易に「猫のため」のようにはせず、〈猫用の〉と突き放して描いたことで、本来、線香は人のために買うものであるということが、逆に強調されている。そんな線香を〈猫用〉に買ってしまう自分を客観的に詠むことで生まれた、微かな滑稽味。これがあるからこそ、悲しみがさらに強調されているのではないか。客観的に描くことで、作者の個人的な体験に、読者が入り込む余地が生まれている。

悼む心に〈春の雪〉が降っている。作者も空を見上げただろうか。

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