2020年3月27日金曜日

●金曜日の川柳〔定金冬二〕樋口由紀子



樋口由紀子






100挺のヴァイオリンには負けられぬ

定金冬二 (さだがね・ふゆじ) 1914~1999

一体、何に対抗心を燃やしているのか。ヴァイオリンは1挺でも存在感があるのに、「100挺」とは大きく出たものである。演奏が始まったら圧倒され、手に負えなくなるはずである。それに「100挺のヴァイオリン」はそもそも勝敗の相手にはふさわしくない。

しかし、それに挑んでいこうとするところがおかしい。反逆精神なのか。たぶん、作者には今、負けられぬものがあるのだ。自分を奮い立たせなくてはならないので、そう思うことで新たな希望を持つのだろう。何故だか、私もなにに対してかわからないが負けられぬと思ってしまった。「負けられぬ」という情緒に対しての「100挺のヴァイオリン」の暗示性に驚かされる。『無双』(1984年刊)所収。

0 件のコメント:

コメントを投稿