相子智恵
春一番あなたにおすすめのワード 久留島 元
「俳句」2020年3月号 精鋭10句競詠「早春賦」(角川文化振興財団 2020.2.25)所載
一読、「余計なお世話じゃ」と笑ってしまった。その後で「ふーむ」と考えさせられるのである。
例えばAmazonで買い物をすると出てくる「あなたにおすすめ」のAIによるレコメンド。購入者である私たちの趣向性はみごとにAIに把握されている。世界中の何億もの商品の中から自由に選んで買えるはずのインターネットでの購買活動一つ取ってみても、自分の世界は無限に広がったように見えて、実は〈おすすめ〉によって、知らないうちに自分の興味の中だけに狭められている。選択肢が多すぎて選べない私たちにすり寄ってくる、そのうすら寒い親近感。
それが俳句作者に対するものだとしたら〈あなたにおすすめのワード〉ということになるのだろう。自分が使っている言葉を元に、AIがおすすめしてくれる言葉とは。「言葉」とせずに〈ワード〉とした軽さもうすら寒い。
一緒に掲載された短文には〈一年を四等分する本来の考え方からは本末転倒かもしれないが、名のみの春は、暦の感覚が遠い時代ならではの季語としてもいいだろう〉とあって、ああ、季節の実感が乏しくなった現代には、こうした〈名のみの〉こそが一周回って親しくもあるのかもしれないな、と思った。その感覚と〈あなたにおすすめのワード〉というバーチャルな「らしさ」への〈おすすめ〉の感覚は、通底しているように私には思える。
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