相子智恵
若冲の鶏が眉間を離れない 柿本多映
「俳句」7月号 第54回蛇笏賞受賞第一作21句「眉間」(2020.6.25 角川文化振興財団)所載
〈若冲の鶏〉は、私は「動植綵絵」のうちの「群鶏図」を思い浮かべた。重なり合う13羽の鶏たちが羽根の模様も精緻に描写され、写実を越えた奇妙な世界を立ち上がらせている、若冲の代表作の一つだ。
〈眉間を離れない〉は、普通なら「頭を離れない」という慣用句になるのだろうが、それではまったく詩にならないことは掲句を見れば明白だ。実際にこの絵を見たことはなくても、〈眉間を離れない〉の一ひねりある表現は、肉体的な実感をぐっと高めてくれる。
そして若冲の「群鶏図」を見ていれば、じっと見ていると眩暈を起こしそうになるこの絵にあって、〈眉間〉こそが眩暈を感じさせてくれるし、「頭」のような人体の中の大きな範囲ではなく〈眉間〉のような局所を〈離れない〉ことこそ、若冲の画と響きあうのである。
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