2020年6月5日金曜日

●金曜日の川柳〔広瀬ちえみ〕樋口由紀子



樋口由紀子






遅刻するみんな毛虫になっていた

広瀬ちえみ (ひろせ・ちえみ) 1950~

遅刻して、あわてて部屋に入ったら、仲間はすでに毛虫になって、動き回っていた。驚きと同時になにやら謎めいている。それよりもまた一人だけ出遅れてしまった。いつもそうだ。まだ間に合うだろうか。しかし、よりにもよって「毛虫」だなんて、どうすればいいのか。

なぜ「毛虫」なのかと聞くのは野暮というものである。実物の毛虫を思い出してみるといい。毛むくじゃらで全身をくねってせかせかと動く姿を想像するだけでおかしくなる。だから、取り残され感は半端ではないのに、どうも頓着している風でもなく、すぐに毛虫になっていそうである。

川柳は同一平面上で意味の流れを途中でずらし、句意を別方向にはぐらかすことによって、言葉の不思議さや可笑しさを表出する。お腹にストンと落ちる、川柳はこうでなくてはと思わせる句集が出た。『雨曜日』(2020年刊 文學の森)所収。

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