相子智恵
フラダンス笑顔涼しく後退る 太田うさぎ
句集『また明日』(2020.5 左右社)所載
一読、笑ってしまう。何と言っても〈後退る〉である。
作者の視点の位置から、フラダンスショーのステージを観ているところが想像された。一列に並んで踊るフラダンサー達は皆、涼しげな笑顔で踊っている。もちろんフラダンスを愛する人達だから、心からの笑顔なのだろうが、同時に、ずっと笑顔で踊り続けることがショーの大事な演出でもあるのだ。その「演出味」を露わにしてみせたのが〈後退る〉なのである。
〈笑顔涼しく〉というウエルカムな態度でありながら〈後退る〉という、文字にするとちょっとシュールなギャップ。踊りには様々な動きがある中で〈後退る〉の一点を捉えた作者は、実際の動きを描写しながら、自身の心理的な距離感も、そこにのせている。この距離感によって、飄々とした諧謔味が一句から立ち現れている。
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