相子智恵
秋風や地より浮き立つ木偶の脚 橋本石火
句集『犬の毛布』(2020.8 ふらんす堂)所載
この木偶は西洋のマリオネットか、人形浄瑠璃の人形だろうか。人間が操る木偶人形たちは、地面から浮いて立ち、歩く。人間の動きのようになめらかに動いて見せながら、木偶人形たちが自分の脚の力で地を蹴ることは決してない。
屋外での人形芝居の上演中、ふっと客席に〈秋風〉が通った。宙ぶらりんに立つ木偶の足元にも、〈秋風〉が吹き抜けてゆく。木偶人形の脚の心もとなさに、秋風がしみじみと寂しく響きあう。
ただ、宙に浮いて立つ脚には風に乗れるような軽やかさもあって、寂しさの中に、不思議とひとすじの爽やかさがあるのである。
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