相子智恵
断面のやうな貌から梟鳴く 津川絵理子
断面のやうな貌から梟鳴く 津川絵理子
句集『夜の水平線』(2020.12 ふらんす堂)所載
梟は、全身は丸っこいのに、貌は確かにそこだけがザックリと切り落とされたかのように平面的だ。ただ平面というのではなく、何かを断ち落とした時に生まれる〈断面〉という言葉が選ばれていることにドキリとする。まるで神によって彫刻のように彫り出された梟が、最後に顔の部分をザックリと鑿で切り落とされたかのようだ。梟のまだらな羽根の色が石目のようにすら思われてくる。
〈断面〉という言葉のもつすべらかな感じを思えば、最初、梟は目を閉じていたのではないだろうか。つるんとした断面から、ふいに目と口が開き、鳴いた。断面が動き、命が動いた。
おそらく写生の句であるのだろう。しかしながらこの不思議な趣は、見たものをただそれらしく俳句に刻み付けるだけでは決して生まれない。
柱よりはみ出て蟬の片目かな
日蝕の風吹いてくる蠅叩
近づいてくる秋の蚊のわらひごゑ
濡れ砂を刺す夏蝶の口太し
日短か雀が雀ねぢ伏せて
火の中の釘燃えてゐる追儺かな
水に浮く水鉄砲の日暮かな
写生の筆致の確かさ、それだけではない。このような透徹した目で対象を見て、不思議を摑みだすことは、何よりも心が自由でなければできないのではないか。取り合わせの妙も同じである。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿