2020年12月7日月曜日

●月曜日の一句〔神野紗希〕相子智恵



相子智恵







もう泣かない電気毛布は裏切らない   神野紗希

句集『すみれそよぐ』(2020.11 朔出版)所載

作者のエッセイ集の題名にもなっており、口誦性に富んでいて一発で覚えた好きな句。泣きながら過ごす眠れぬ夜、ひとしきりウジウジと悩んで泣いた後、電気毛布の安定した温かさにくるまれると気持ちもほぐれ、〈もう泣かない〉と、きっぱりと決意したのだ。

〈電気毛布は裏切らない〉とは、なるほどなあと思う。寒い夜、普通の毛布は、入った瞬間はまだ冷たい。自分の体温と混ざり合ってようやくぬくぬくと温かくなってくるものだ。ところが電気毛布は、眠る前に温めておけば布団に入った瞬間から温かい。そしてその温かさはいつも一定で、人の体温や環境によって左右されることもない。まさにいつでもどこでも〈裏切らない〉のだ。

〈電気毛布は裏切らない〉の裏側には、裏切ったり裏切られたりする人間関係特有のままならなさがあって、人間相手だから、電気毛布よりも温かい気持ちになる感動的な瞬間もあれば、一方で氷のように冷える瞬間もあるのは当然だ。こうした生の感情や関係の波とは真逆の、予想通りで、いつでも一定で、自分を絶対に裏切らない象徴である〈電気毛布〉。

〈もう泣かない〉のきっぱりとした宣言は、泣くことによるカタルシスを経てスッキリした気分もあるにはあるのだけれど、一方で「泣く」という自然な感情を理性で閉じ込めて、自分が「電気毛布化」することを決意する態度でもあるのだから、究極はやっぱり自分の感情を殺すことになってしまうだろう。これは自己暗示のような強がりであって、それでもなお、泣いてしまうのが人間である。まあ、泣いたらまた電気毛布に癒されればよいのだ。電気毛布とは、なんとまあ偉大な発明であることよ。

 

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