2021年1月11日月曜日

●月曜日の一句〔今瀬剛一〕相子智恵



相子智恵







初鏡この顔で押し通すかな   今瀬剛一

句集『甚六』(2020.12 本阿弥書店)所載

〈初鏡〉は「正月初めて鏡に向かって化粧をすること、またはその際の鏡をもいう」と歳時記にあって、掲載されている例句も女性を描いた句ばかりだが、掲句は作者の実感であろうから男性の初鏡なのだろう。顔を洗い、髭を剃ったのかもしれない。よく考えてみたら鏡は男女関係なく見るものなのだから、歳時記の認識も新たにしたいところだ。掲句は格好の例句になると思う。

それにしても〈この顔で押し通すかな〉の諧謔はめでたく、元気が出る。〈この顔で押し通す〉と言えるようになるまでには、結構な年月がかかっていることだろう。20、30代で「何者かになる」と思っていたりルッキズムの呪いにとらわれていたりする間は、なかなか自分の顔に納得できる境地にはなるまい。40、50代の人生経験でも〈押し通すかな〉までの境地に至ることは難しいかもしれない。だからこそ、ある種の諦念を清々しいほどのふてぶてしさに変えた明るい掲句が眩しくて、読むと元気になるのである。

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