2021年1月18日月曜日

●月曜日の一句〔黒田杏子〕相子智恵



相子智恵







白葱のひかりの棒をいま刻む   黒田杏子

句集『木の椅子 増補新装版』(2020.11 コールサック社)所載

昨年11月に増補新装版として出版された、黒田杏子の第一句集『木の椅子』より引いた。ほぼ40年前、1981年に刊行された同句集はその年の現代俳句女流賞と俳人協会新人賞を受賞。このたびの増補版には、現代俳句女流賞の選考委員である飯田龍太、鈴木真砂女、野沢節子、細見綾子、森澄雄による選評を始め、俳人・文人による黒田杏子論などが収録されており、当時の雰囲気を感じられる一冊となっている。

掲句、氏の代表句には必ず数えられる有名句で、今さら鑑賞でもないか……とも思うのだが、やはり美しい句だと思う。立派な太さの白葱なのだろう。洗い上げられ、まな板に置かれた一本の白葱が、まるで雲間から漏れる一筋の日矢のように〈ひかりの棒〉となって横たわっている。

この句の中で私が最も気になるのは〈いま刻む〉の〈いま〉だ。俳句はしばしば「今、この瞬間を詠む」と言われ、掲句も〈いま〉がなくても十分に通じるからである。きっと、この〈いま〉には、「今こそ」や「いざ」のような強調の思いがあるのだろう。その意味では切字の役割だともいえる。また、「I」の音の繰り返しによる頭韻の効果も大きい。

この〈いま〉によって、瞬間の光が強調される。すでに包丁が入り、刻まれた部分も少しはあることだろう。刻まれた部分は、日矢が海面に落ちて波に散らばったような眩さがあろう。

そうした壮大さが、一本の白葱という庶民的な野菜から発想されていることは、やはり俳句の面白さのひとつだと思う。

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