相子智恵
光ともこゑとも寒の泉かな 名取里美
光ともこゑとも寒の泉かな 名取里美
句集『森の螢』(2020.11 角川書店)所載
一読、清らかでまばゆい句である。寒中の泉は湧水も少ないだろうが、刺すように冷たい水が、冬の澄んだ空気の中で清澄な光を放っている。水が多くない時季だけに、水の湧く音、すなわち〈こゑ〉も小さいことだろう。しかし、その音にじっと耳を澄ませてみれば、何とも言えない清らかさがあるのだ。
〈寒の泉〉は、視覚からの情報と聴覚からの情報が分かちがたいほどに、冬日の中で輝き響いている。多面的で硬質な輝きが、一句を宝石のように乱反射させているのだ。
〈光〉〈こゑ〉〈寒〉〈かな〉と、一句を通してK音が響き渡るしらべもまた、清らかで美しい。
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