相子智恵
春の暮嘘でも辻褄が合つた 瀬戸正洋
春の暮嘘でも辻褄が合つた 瀬戸正洋
句集『亀の失踪』(2020.9 新潮社 図書編集室)所載
嘘の辻褄合わせに嘘を重ねる政治は論外だけれど、小さな嘘の経験がない人はめずらしいだろう。そして案外、嘘の辻褄が合ってしまうということも、生きていればたまには起きる。
掲句の〈嘘でも辻褄が合つた〉からは、嘘をついてしまった後ろめたさと、ひょんなことから嘘の辻褄が合ってしまい、拍子抜けしたようなラッキーな気分が見えてくる。この、とぼけた言い回しからは、吐いた嘘が大したことのない、害のない嘘だということもわかる。
〈春の暮〉も絶妙な取り合わせで、「秋の暮」や「冬の暮」のように寂しくも厳しくもない。むしろこれから「春宵一刻千金」の春の宵がやってくる艶めいた夕暮れ時の気分があり、中七・下五の飄々とした味わいをよく活かしている。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿