2021年2月15日月曜日

●月曜日の一句〔瀬戸正洋〕相子智恵



相子智恵







春の暮嘘でも辻褄が合つた  瀬戸正洋

句集『亀の失踪』(2020.9 新潮社 図書編集室)所載

嘘の辻褄合わせに嘘を重ねる政治は論外だけれど、小さな嘘の経験がない人はめずらしいだろう。そして案外、嘘の辻褄が合ってしまうということも、生きていればたまには起きる。

掲句の〈嘘でも辻褄が合つた〉からは、嘘をついてしまった後ろめたさと、ひょんなことから嘘の辻褄が合ってしまい、拍子抜けしたようなラッキーな気分が見えてくる。この、とぼけた言い回しからは、吐いた嘘が大したことのない、害のない嘘だということもわかる。

〈春の暮〉も絶妙な取り合わせで、「秋の暮」や「冬の暮」のように寂しくも厳しくもない。むしろこれから「春宵一刻千金」の春の宵がやってくる艶めいた夕暮れ時の気分があり、中七・下五の飄々とした味わいをよく活かしている。

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