2021年5月21日金曜日

●金曜日の川柳〔鈴木逸志〕樋口由紀子



樋口由紀子






風船の中に男が立っている

鈴木逸志 (すずき・いっし) 1954~

「風船の中」? と思った。風船の上とか、風船の下とか、それもあまりなさそうだが、まだなんとか想像できる。「中」は不思議な空間である。「男」とは自分自身のことだろう。今、そこにいる。心の中の自分の姿なのだろうか。

風船の中だといつ割れてしまうかわからない不安をたえずかかえていなければならない。それに風船と一緒にどこか見知らぬ所へ飛んでいってしまうかもしれない。捉えどころのない現代社会の危うさを連想している。風船の中に立って、身体を通して、不安定な今を確認し、立て直しているのか。そのように自分の姿を見ているところに誠実さと切実さを感じる。風船の中に立っている男の顔がはっきりと見えそうである。『杜Ⅱ』(川柳杜人社刊 2021年)所収。

0 件のコメント:

コメントを投稿