樋口由紀子
いちまいのぱんつの他は泡だった
野沢省悟(のざわ・しょうご)1953~
池や川かあるいは排水溝に浮かんでいるパンツを描写したのだろう。このぱんつは下着のパンツで、洗濯水と一緒に流れてきたのか、あるいは物干し竿から飛んできたのか、場違いのように一枚のぱんつが泡のなかで浮いている。ぱんつだって、なぜここにいるのかわからない。泡だって、自分たちの領域に別物が闖入してきて、驚いているだろう。
「ぱんつ」と「泡」の二つのベクトルの異なる儚さを捉えて、俗っぽさとは別の性質を醸し出している。絵になりにくいものをセンチメンタルに描いて、不思議な気分を与えた。現実の景をありのままに限定的に切り取っているようなのに、非限定的な広がりを感じさせる。
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