相子智恵
ネガフィルム透かしては捨て緑の夜 大島雄作
ネガフィルム透かしては捨て緑の夜 大島雄作
句集『明日』(2022.04 本阿弥書店)所収
写真のネガの整理をしている。〈ネガフィルム〉の懐かしさと〈透かしては捨て〉の繰り返しに、一句は生前整理の様相を帯びている。今ではネガフィルム自体を見たことがない若い人も多いだろう。
季語は〈緑の夜〉で、初夏の若葉が美しい夜。だが、ネガフィルムは室内の電気に照らして透かし見ているのだろうから、緑の夜は窓の外にある。窓からは暗さの中に浮かび上がる緑も見えるのだろうが、窓に反射して室内も同時に見えているだろう。その二重写しの加減が〈ネガフィルム〉というものとどこか響き合っていて、不思議な立体感が生まれている。
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