2022年5月30日月曜日

●月曜日の一句〔相子智恵〕西原天気



西原天気

※相子智恵さんオヤスミにつき代打。




緑蔭や団地の壁の数字の5  相子智恵

句集『呼応』(2021年12月/左右社)所収

団地の側壁に設えられた数字には、印刷物ではあまり見ない書体が使われていたりするので、油断がならない。つまり注目すべき。というか、注視しちゃう。

団地/建造物は長く使うし、壁は風雨に晒される箇所なので、塗装だと、数字が剝がれたりかすれたりしてしまうのだろう、金属板などで拵えた数字が取り付けられることが多いようだ。壁から少し浮いた感じになるのも「団地棟の数字」愛を育む要素だ。数字の影がかすかに壁に落ちるのが見える角度だったり、あるいは数字板の全体にサビが出たりしていれば、観察者(=私)の愛は絶頂に達する。

すこし落ち着こう。掲句。なぜ「1」でも「6」でもなく「5」なのか。それにははっきりとした理由がある。「5」は、直線の縦と横、曲線、一画の終点と、他の数字よりも多くの要素を含むので、書体を愛でるのに適している。

初夏、ひろびろとした敷地の棟と棟のあいだには木々が植わり、のびのびと大きく成長し、緑が盛大に茂る。その下から、枝越しに、薫風越しに見上げた団地棟の壁面に「5」。私のように変態的愛情をもってそれを眺める人は多くないかもしれないが、それだからといって、この句の感興が薄れるわけではない。うっすら暑い午後のひとときの、なんでもない景色が、網膜に、脳に、記憶に定着する。これはもうじゅうぶんにラヴ&ピース!な俳句的悦楽と言ってさしつかえない。

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