相子智恵
手花火を了へたる膝のほきと鳴る 中原道夫
手花火を了へたる膝のほきと鳴る 中原道夫
句集『橋』(2022.4 書肆アルス)所収
手花火を終えて立ち上がったら、膝が〈ほき〉と鳴った。手花火にもいろいろな種類があって、勢いのある手花火は立ったまま手を遠くへ伸ばして行うから、膝を折ってする手花火といえば、やはり線香花火だろう。
牡丹、松葉、散り菊など、火のかたちが移り変わる線香花火。そのたびにシパッ、シパッと、かそけき音が鳴る。やがてジジジジ……といいながら球が落ちて花火が終わり、立ち上がる。その時に膝が〈ほき〉と鳴ったのだ。
まるで線香花火の続きのような〈ほき〉というやさしい音がいい。花火の終わりの寂しさと、膝が鳴るというおよそ詩的ではない卑俗さが、〈ほき〉の一語によってうまく溶け合い、上質な滑稽に仕立てられている。見事なオノマトペだと思った。
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