浅沼璞
心持ち医者にも問はず髪剃りて 前句(裏七句目)
高野へあげる銀は先づ待て 付句(裏八句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)
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句意は「高野山へ寄進する銀は一先ず見合わせろ」といった感じです。前句の「髪剃りて」を剃髪と取り成しての付でしょう。
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以下、付句の自註です。
「万事は是までと病中に覚悟して、日ごろ親しきかたへそれぞれの形見分け。程なう分別(ふんべつ)替りて皆我物(わがもの)になしける。是、世の常なり。いづれか欲といふ事、捨てがたし。ありがたき長老顔(ちやうらうがほ)にも爰(こゝ)ははなれず。いはんや、民百姓の心入れ、あさまし」
意訳すると、「人生もここまでと病中に覚り、日頃親しい人に形見分けを。と思ったもののすぐに考えが替わって全て自分のものにしてしまう。これは世の中に、ありありのパターンである。どのみち欲というものは捨て難い。あり難い住職面をしていても欲心は離れない。まして一般人の本心はあさましい限りだ」
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では最終テキストにいたる過程を想定してみましょう。
形見分けなど一時のこと 〔第1形態〕
↓
仏ごころも一時のこと 〔第2形態〕
↓
高野へあげる銀は先づ待て 〔最終形態〕
〔第2形態〕で釈教に転じ、〔最終形態〕でそれを具体化してるわけです。医者にも問わず剃髪し、高野山へ寄進を思いついた病人に、「いや、ちと待て」と諫める隠居老人のせりふのようで、さながら浮世草子のオチを思わせます。
「そや、オチがきいてるやろ。それに『て留』の連発やで」
えーと「て」は「て」なんですが、文法的にいうとですね、「髪剃りて」の「て」は接続助詞で確かに『て留』ですけど、「先づ待て」の「て」は「待つ」という四段動詞の命令形の活用語尾でして、そのー、つまり……。
「なんやよう分けのわからんこと連ねおって。『て留』は『て留』やろ」
あ、いや……たしかに。
〔第2形態〕で釈教に転じ、〔最終形態〕でそれを具体化してるわけです。医者にも問わず剃髪し、高野山へ寄進を思いついた病人に、「いや、ちと待て」と諫める隠居老人のせりふのようで、さながら浮世草子のオチを思わせます。
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「そや、オチがきいてるやろ。それに『て留』の連発やで」
えーと「て」は「て」なんですが、文法的にいうとですね、「髪剃りて」の「て」は接続助詞で確かに『て留』ですけど、「先づ待て」の「て」は「待つ」という四段動詞の命令形の活用語尾でして、そのー、つまり……。
「なんやよう分けのわからんこと連ねおって。『て留』は『て留』やろ」
あ、いや……たしかに。
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